将棋の世界には、男女の区別をしない「将棋プロ棋士」以外に、女性だけに門戸が開かれた「女流棋士」という制度があります。女流棋士の世界でもタイトル戦があり、優勝者には賞金・永世称号もあり、女流名人戦も同様です。今日は女流タイトルの仕組みや奨励会との関係をまとめました。
目次
女流の将棋タイトルの仕組みと賞金
清麗戦
新しく導入された女流のタイトル戦で、賞金は700万円と女流タイトル戦のトップです。
よって、序列も第1位となりました。
現在、予選が進行中です。
マイナビ女子オープン
序列と格
女流王座と並んで、女流タイトルの最上位に位置付けられていましたが、清麗戦の導入で、2位となりました。
マイナビ女子オープンは、優勝すると「女王」という称号を手にすることができます。
賞金
500万円です。
過去の記録は?
創設されて今年で11年目の女流タイトル戦なので、記録は少ないのですが、過去には3つの連覇があります。
順位 | 氏名 | 連覇 |
1位 | 加藤桃子 | 4連覇 |
2位 | 矢内理絵子 | 2連覇 |
2位 | 上田初美 | 2連覇 |
タイトルホルダー
西山朋佳女王です。
チャレンジマッチ
チャレンジマッチ→予選という流れで、本戦への進出者を絞っていきます。
チャレンジマッチは、アマチュアも参加できるという点が特徴的で、7月に行われます。
出典:日本将棋連盟
チャレンジマッチは、2敗失格システムを採用している予選で、1敗すると敗者復活戦→出場者決定戦に回って、予選への進出を目指します。
予選
チャレンジマッチを通過してきた人等が集まる予選で、8月に行われます。
トーナメントを勝ち抜いた12名が本戦へ進みます。
出典:日本将棋連盟
本戦
前期ベスト4や、3級以上の奨励会員等と予選を勝ち抜いてきた12名がトーナメントを行い、女王への挑戦者を決めます。
本戦は、9月から翌年3月にかけて行われます。
2018年に行われた本戦トーナメントは以下の通りで、西山朋佳三段が挑戦者になりました。
西山朋佳三段は、女流タイトル全冠制覇を狙う里見香奈女流五冠を準決勝で破っての、挑戦権獲得でした。
五番勝負
翌年4月から6月にかけて行われます。
現在進行中の五番勝負の推移は、以下の通りです。
スケジュールまとめ
チャレンジマッチ | 予選 | 本戦 | 五番勝負 |
7月 | 8月 | 9月〜翌年3月 | 翌年4月〜翌年6月 |
女流王座戦
序列と格
マイナビ女子オープンと並んで序列2位とされています。
賞金
500万円です。
過去の記録は?
創設されてまだ8年目の新しいタイトル戦なので記録は少ないですが、連覇記録は里見香奈女流王座と加藤桃子初段の「2連覇」が同一1位です。
特に加藤桃子初段は、第1期から第7期まで7年連続して女流王座戦の五番勝負に出場し、そのうち4期タイトルを獲得しているという連続記録を持っています。
タイトルホルダー
里見香奈女流王座です。
挑戦者決定の仕組み
アマチュア東西予選→一次予選→二次予選→本戦という流れで、挑戦者を決めていきます。
アマチュア東西予選
東日本と西日本に分かれてアマチュア代表を決める予選が、4月に行われます。
両方から3名ずつの合計6名が、一次予選へ進みます。
一次予選
アマチュア予選を勝ち抜いてきた6名を交えて、一次予選を行います。
一次予選は、5月に行われるのですが、60名の中から20名だけが二次予選へ進むことができる、狭き門です。
出典:日本将棋連盟
二次予選
一次予選を勝ち上がってきた20名に、二次予選から登場する4名を交えて、6月に二次予選を行います。
本戦へ勝ち進むのは、半分の12名です。
本戦
二次予選を勝ち上がってきた12名に、シードの4名を加えて、本戦トーナメントを行います。
本戦は7月から9月にかけて行われ、4連勝すれば挑戦者になることができます。
五番勝負
女流王座と挑戦者の間で行われる五番勝負は、10月から12月にかけて行われます。
スケジュールまとめ
アマチュア予選 | 一次予選 | 二次予選 | 本戦 | 五番勝負 |
4月 | 5月 | 6月 | 7月〜9月 | 10月〜12月 |
女流名人戦
もっとも歴史の長い女流タイトル戦
2018年で45期を迎える、女流タイトル戦の中でも最も歴史のあるタイトル戦です。
賞金は公表されていません。
過去の記録は?
歴史が長い分、様々な連覇記録があります。
主な連覇記録を並べると、以下の通りです。
順位 | 氏名 | 連覇 |
1位 | 里見香奈 | 10連覇 |
2位 | 清水市代 | 5連覇 |
3位 | 山下カズ子 | 4連覇 |
里見香奈女流名人の10連覇は現在継続中の記録なので、今後もっと伸びる可能性を秘めています。
タイトルホルダー
里見香奈女流名人です。
挑戦者決定の仕組み
1月〜3月にかけて予選を行って、4名に絞られます。
筆者の勉強不足で背景事情はわかりませんが、マイナビ・女流王座戦と違って、奨励会員やアマチュアは出場しません。
出典:日本将棋連盟
予選を勝ち抜いた4名と、シード6名を加えた合計10名で、4月〜11月に女流名人戦リーグを行います。
出典:日本将棋連盟
総当たりなので9局行って、トップの女流棋士が挑戦者になります。
五番勝負
挑戦者が決まると、1月から2月にかけて女流名人戦五番勝負を行います。
スケジュールまとめ
予選 | 本戦 | 五番勝負 |
1〜3月 | 4月〜11月 | 翌年1月〜翌年2月 |
賞金は?
以下の記事でまとめています。
女流王将戦
歴史のある女流タイトル戦
女流名人戦の次に歴史のある女流タイトル戦で、2018年に40期を迎えます。
賞金は、非公表です。
タイトルホルダー
里見香奈女流王将です。
過去の記録は?
歴史が古い女流タイトル戦なので、連覇記録もすごいものがあります。
順位 | 氏名 | 連覇 |
1位 | 林葉直子 | 10連覇 |
2位 | 里見香奈 | 4連覇 |
3位 | 清水市代 | 3連覇 |
3位 | 中井広恵 | 3連覇 |
林葉直子さんの10連覇は、女流タイトル戦の中で最長記録です。
里見香奈さんが女流名人10連覇を達成したことで、林葉直子さんの記録に並びました。
予選
4月に予選を行なって、12名に絞られます。
なお、女流名人戦と違ってアマチュアも出場されていますが、奨励会員の名前は見えません。
本戦
予選を勝ち抜いてきた12名にシード4名を加えて、6月〜9月にかけて16名で本戦トーナメントを行います。
つまり、4連勝すれば挑戦者になれます。
三番勝負
他の女流タイトル戦と違って、三番勝負でタイトルを争います。
三番勝負は10月から11月にかけて、行われます。
スケジュールまとめ
予選 | 本戦 | 五番勝負 |
4月 | 6月〜9月 | 10月〜11月 |
女流王位戦
歴史のある女流タイトル戦
女流名人戦や女流王将戦と同じく歴史の長いタイトル戦で、2018年で29期を迎えます。
賞金は、非公表とされています。
タイトルホルダー
里見香奈女流王位です。
過去の記録は?
歴史が長いこともあって、数々の記録が生まれています。
連覇の記録を見てみましょう。
順位 | 氏名 | 連覇 |
1位 | 清水市代 | 9連覇 |
2位 | 里見香奈 | 3連覇 |
2位 | 中井広恵 | 3連覇 |
清水市代さんの9連覇が凄いですが、矢内理絵子さんに取られる前は4連覇していました。
仮に矢内さんに負けていなかったら、14連覇という途方も無い記録が誕生していたことになります。
予選
9月から10月にかけて行われる予選を勝ち抜いた6名が、挑戦者決定リーグへ進出します。
出典:日本将棋連盟
挑戦者決定リーグ
王位戦でも挑戦者決定リーグは「紅組」と「白組」に分かれますが、女流王位戦でも同様です。
出典:日本将棋連盟
予選を勝ち抜いてきた6名と、前期のリーグで残留した6名の合計12名が、紅組と白組に分かれて、12月から翌年の3月にかけて、総当たりのリーグ戦を行います。
紅組の優勝者と白組の優勝者が、4月に一番勝負を行い、挑戦者が決まります。
出典:日本将棋連盟
五番勝負
翌年5月から6月にかけて、五番勝負を行います。
2018年の五番勝負はすでに始まっていて、挑戦者の渡部愛女流二段の先勝で開幕しています。
出典:日本将棋連盟
スケジュールまとめ
予選 | 挑戦者決定リーグ | 五番勝負 |
9月〜10月 | 12月〜翌年4月 | 翌年5月〜翌年6月 |
倉敷藤花戦
倉敷市で創設された女流タイトル戦
大山康晴名人は岡山県倉敷市出身なので、大山名人の功績をたたえて倉敷市で創設された女流タイトル戦です。
賞金は、非公表とされています。
タイトルホルダー
里見香奈倉敷藤花です。
過去の記録は?
女流王位戦に次ぐ歴史を持っているので、連覇の記録もいくつかあります。
順位 | 氏名 | 連覇 |
1位 | 清水市代 | 7連覇 |
2位 | 里見香奈 | 5連覇 |
3位 | 中井広恵 | 3連覇 |
トーナメント
他の女流タイトル戦と違って、予選が無いのが特徴です。
トーナメントは、3月から9月にかけて行われます。
三番勝負
11月に行われますが、女流王将戦と同じく三番勝負です。
スケジュールまとめ
トーナメント | 三番勝負 |
3月〜9月 | 11月 |
永世称号
永世・クイーンという称号がある
「将棋プロ棋士」の世界と同じく、女流タイトルでも永世称号があります。
マイナビ女子オープンのタイトルである「女王」だけは「永世女王」という呼び名ですが、それ以外は、以下のように「クイーン〇〇」という呼び方をします。
タイトル戦 | 称号 | 永世称号 | 獲得者 |
マイナビ女子オープン | 女王 | 永世女王 | 該当者なし |
女流王座戦 | 女流王座 | クイーン王座 | 該当者なし |
女流名人戦 | 女流名人 | クイーン名人 | 中井広恵、清水市代、里見香奈 |
女流王位戦 | 女流王位 | クイーン王位 | 清水市代 |
女流王将戦 | 女流王将 | クイーン王将 | 清水市代、里見香奈 |
倉敷藤花戦 | 倉敷藤花 | クイーン倉敷藤花 | 清水市代、里見香奈 |
永世・クイーン称号を得る条件も、「永世女王」のみ「5期連続または通算7期」で、他の女流タイトル戦よりハードルが高くなっています。
それ以外の5つの女流タイトル戦は、「通算5期」が要件になっています。
里見香奈さんと清水市代さんを比較
永世・クイーン称号リストでひときわ目を引くのは、「里見香奈」「清水市代」の名前の多さです。
それだけ長い間君臨していることの証明なのですが、お二人の実績(タイトル獲得数)を以下の表で比較してみました。
里見香奈 | 清水市代 | |
女王 | 1期 | – |
女流王座 | 4期 | – |
女流名人 | 10期 | 10期 |
女流王位 | 4期 | 14期 |
女流王将 | 7期 | 9期 |
倉敷藤花 | 9期 | 10期 |
合計 | 35期 | 43期 |
マイナビ女子オープン(女王)と女流王座戦は、清水市代さんの全盛期には創設されていなかったので、そこは割り引いて考える必要があります。
ただ、里見香奈女流五冠に比類するレベルの君臨度だったのは、想像に難くありません。
https://shogipocket.com/satomi-and-future/
連覇は?
タイトルをたくさん獲得している方の共通点は、連覇の長さです。
里見香奈さんと清水市代さんの、連覇の情報をまとめてみました。
里見香奈 | 清水市代 | |
女王 | 連覇なし | – |
女流王座 | 3連覇※1 | – |
女流名人 | 10連覇※1 | 5連覇 |
女流王位 | 3連覇 | 9連覇 |
女流王将 | 4連覇※1 | 3連覇 |
倉敷藤花 | 5連覇※2 | 7連覇 |
※1 現在継続中
※2 現在4連覇を継続中
清水市代さんは最多記録が9連覇で、里見香奈さんは女流名人戦で並んでいました。
が、10連覇を達成したことで、清水市代さんの記録を抜きました。
将棋界での10連覇は、羽生善治王座の19連覇と大山康晴名人の13連覇の2つしかなく、とてつもない偉業です。
奨励会との関係
奨励会員も参加できる
女流のタイトル戦は、名前の通り女流棋士向けのタイトル戦です。
一方で、女流棋士の第一人者である里見香奈女流五冠が奨励会へ挑戦する意向を示したことをきっかけに、制度が整備されました。
具体的には、「女流棋士ではない奨励会員であっても、女流タイトル戦に出場できる」というものです。
この制度を使って、加藤桃子初段や西山朋佳三段が女流タイトル戦に出場しています。
参加しているタイトル戦は?
2011年の制度整備から、奨励会員が女流のタイトル戦に参加していますが、参加しているのは女流王座戦とマイナビ女子オープンに限られています。
こちらの記事もおすすめです